発達障害児によく見られる体の不調(1)腰痛

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腰痛はもはや「国民病」といってもよいほどに蔓延しています。しかも原因がよく分からない腰痛が圧倒的に多いということをご存じだったでしょうか。今回の記事では、子供(特に発達障害児)の腰痛リスクについて考えていきたいと思います。

腰痛全体の85%が原因不明!

原因がよく分からない腰痛、つまり骨や関節などに明らかな異常がない腰痛は「非特異的腰痛」と呼ばれます。

日本整形外科学会と日本腰痛学会が2012年に出したガイドラインによれば、この非特異的腰痛は、腰痛を訴える人の実に85%にも上ると言われます。

参考 腰痛にストレス関与 安静、有効と限らず  学会が診療指針【日本経済新聞 電子版】

非特異的腰痛を引き起こす理由として、ぎっくり腰、ストレスなどもあります。

個人的な印象でのお話ですが、非特異的腰痛は筋肉の問題で起こっていることが多くあるのではないかと思います。

筋肉の疲労や使い痛みなどはレントゲン上には写りません。

動かしていたら楽になった、というような場合、「動かすことで硬くなっていた筋肉のコリ(筋スバズムと呼ばれます)がほぐれた」と考えることもできます。

またリンク記事にもあるように、慢性的な腰痛には安静よりも運動が効果的であると言われていることからも、筋肉に由来する腰痛が多いものと思われます。

 

発達障害児に腰痛が起こる理由の考察

学校の先生などから「腰の痛みを訴える子供が多くなった」とよく聞きます。外遊びの機会が減ったことやゲーム姿勢が長く続くことで、腰の筋肉がこわばってくるため、それがやがて慢性腰痛になっていくことは想像に難くないですが、発達障害児の場合、それ以外にも腰痛を引き起こす原因が考えられます。

その理由について考えてみます。
※なお、以下の考察では「腰の筋肉」と表現していますが、腹筋を含む体幹筋と捉えいただくとイメージしやすいと思います。

1.過緊張のため

体全体に力が入っていて、なかなか力を抜くことができない子供の場合、腰の筋肉も常に過緊張状態にあるといえます。ずっと力が入った状態が続けば、筋肉は疲労し、筋スパズム(コリのひどい状態)が発生し、やがて痛みが出てきます。

2.低緊張のため

「低緊張=柔らかい」というイメージのため、過緊張の子供に比べると、一見腰痛とは無縁に思われるかもしれませんが、低緊張でも腰痛のリスクはあります。

立ったり、歩いたりするときにも腰の筋肉は必要ですが、低緊張の子供は活動時に「頑張って」腰の筋肉を働かせる必要があります。

つまり、使いにくい筋肉を(意識的に)無理をしながら使うことで、腰の筋肉は疲労してきます。疲労はやがて痛みにつながります。

3.体の使い方が不器用なため

筋肉の張り(緊張)に問題がなくても、「うまく筋肉を使えない」と筋肉の負担は増えます。

うまく使えない子供が、その筋肉を使おうとすると、必要以上に力をいれたり、動かす向きを間違ったりすることにつながります。

つまりがむしゃらに使おうとするわけですが、このような使い方を長い間続けていると、筋肉はやがて疲労していきます。

4.常に姿勢の崩れがあるため

障害のない子供さんの腰痛と同じ理由です。いつも姿勢が悪いため、腰の筋肉を使う機会が減り、やがて腰の筋肉が弱っていきます。

弱った状態で体育で運動をしたり、普段とは違う体の使い方をしたりすると、筋力不足から痛みが出やすい状態になってしまいます。

 

改善方法は、運動と環境設定

これらの課題の改善方法にはどのようなことがあるでしょうか。

一つは、運動により腰部にたまった疲労をとってあげることや、無理なく腰部の筋肉を鍛えることです。

もう一つは、腰部に負担がかからない姿勢を取れるような環境を設定することです。

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1.運動

過緊張の子供の場合は、筋肉をリラックスするために柔軟体操をはじめとするリラックス目的の運動がおすすめです。

これは腰の筋肉だけでなく、全身の筋肉をほぐすような運動が効果的でしょう。

また精神的なリラックスから体のリラックスを引き出せるように、ロッキングチェアに座ったりトレーニングボールに乗り、ゆらゆらと動かすなどもよいでしょう。

ラジオ体操は適度に筋肉をつかいながらストレッチ効果もあるため、手軽に行える運動の中では特におすすめです。

 

低緊張の子供の場合は、低負荷の全身運動を行うことで、筋肉の活動を促していきましょう。

トレーニングボールなどの上に座り(もちろん安全に配慮した上で)、体幹を安定させることを意識して、上下に軽く跳ねる、ボールの上に座った状態で体を前後左右に動かし、体幹筋に刺激を入れるなどの方法があります。

ボールの上に乗れない子供の場合、やはりラジオ体操が適度な筋肉の活動につながるのでおすすめです。

 

また日常の中で筋肉の活動を行う(例えばお手伝いなど)機会も増やしていくのがよいでしょう。

これについては以前に書いた記事をご参照ください。

超簡単!体幹を強くする日常での取り組み(1)靴下を立ったままで穿く

超簡単!体幹を強くする日常での取り組み(2)食器をお盆の上に乗せて運ぶ

超簡単!体幹を強くする日常での取り組み(3)浴槽のお湯で体を洗い流す

2.環境設定

環境設定とは、子供自身の体を変化させるのではなく、椅子の座り方などの環境を変えることで、腰痛のリスクを減らそうという取り組みのことです。

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はじめに考えることは、椅子です。

きちんとした座り方ができやすいような環境を作ってあげましょう。

「足が床にしっかりついていること」、「膝と股関節が直角(もしくはそれに近い)になっていること」、「お尻を椅子の背面に当たるくらい深く腰掛けていること」、「座った状態で骨盤(腰骨)が起きていること」などが座る時のポイントです。

またソファーは姿勢を崩す元凶とも言えますので、日常の中では多用しないようにしましょう。

 

またベッドで寝ているお子さんの場合、マットレスの硬さにも注目してみてください。

柔らかいマットレスでは腰が沈むため注意が必要です。

どちらかと言えば硬めのマットレスのほうがよいでしょう。

 

なお、腰痛予防のためのマットレス選びの秘訣は、「寝返りがしやすいマットレスを選ぶこと」です。

人は寝ている間、何度も寝返りをします。

実は寝返りをすることは、体が硬くなることを予防する効果があります。

寝返りがしにくくなるという観点からも、腰が沈み込むような柔らかいマットレスは避けましょう。

 

まとめ

■発達障害児は、障害のない子供に比べ腰痛を引き起こす要因がいくつもあります。

■腰痛は原因のよく分からない非特異的腰痛が全体の85%を占め、発達障害児の腰痛もこの中に含まれる確率が高いと予測されます。

■過緊張や低緊張、体を器用に使えないことなどから、腰痛に至ることが考えられます。

■改善、予防のためには、子供にあった適切な運動の取り組みと、腰痛を生み出さない環境の設定が必要です。