「視覚優位な子ども」に足りない感覚とは? 理学療法士が教える姿勢と運動のカギ

現代の子どもたちは、スマートフォンやタブレット、テレビや動画など、視覚的な刺激に囲まれて育っています。

便利でわかりやすい視覚情報に頼ることは、学習面では一見効率的に思えますが、身体の発達、とりわけ姿勢や運動の観点から見ると、気をつけるべき点があります。

視覚に頼りすぎることで、本来育つべき「固有感覚(深部感覚)」が十分に発達しにくくなり、それが姿勢の不安定さや運動の不器用さにつながることがあるのです。

固有感覚とは何か?

固有感覚とは、筋肉や関節から得られる感覚で、「今、自分の体がどんな姿勢で、どのくらい動いているか」を感じ取る力です。例えば、目をつぶっても自分の腕が上がっていることがわかるのは、この感覚が働いているからです。

この感覚は、私たちが姿勢を保ったり、なめらかに動いたり、バランスをとったりする際に欠かせないものです。

特に子どもの成長期には、この感覚を多様な動きを通じて育むことが大切です。


研究においても、固有感覚は姿勢制御において重要な役割を果たしていることが示されています(Shumway-Cook & Woollacott)。

また、感覚統合理論(Ayres)においても、固有感覚は他の感覚(視覚、前庭感覚)とともに統合されることで、適切な運動制御が可能になるとされています。

特に発達段階にある子どもにとっては、視覚以外の感覚を活用して運動する経験の蓄積が脳のネットワーク構築にも影響を与えるため、バランスの取れた感覚刺激の獲得が望まれます。

視覚優位が固有感覚の発達を妨げる理由

視覚優位な子どもは、体の動きを「感じて」行うのではなく、「見て」確認しながら動こうとします。

その影響で、動作の際に固有感覚を使う機会が減ってしまい、結果として固有覚が十分に育ちません。


たとえば、平均台の上を歩くとき、固有感覚が育っている子は足の裏の感触や体のバランスを頼りにスムーズに渡れます。しかし視覚優位の子は、足元をじっと見つめ、動きがぎこちなくなりやすいのです。


また、鉛筆の持ち方や箸の操作などにも影響が出ることがあります。

視覚で位置や動きを補おうとすると、細かい手の感覚が育ちにくく、微細運動が苦手になってしまうこともあるのです。こうしたことが続くと、自信の低下や学習面での苦手意識にもつながりかねません。

このように、視覚に頼る傾向が強いほど、身体感覚の発達が弱くなり、それが「姿勢が安定しない」「動作がぎこちない」といった形で現れてきます。

固有感覚を育てるためにできること

固有感覚は、実際に体を動かす経験の中で育ちます。特に「見ないで感じる」遊びや動きが効果的です。

たとえば、目をつぶってケンケンをしたり、凸凹道を歩いたりすることは、視覚を制限した中で身体の位置や動きを感じ取る良い練習になります。

また、雑巾がけや逆立ち、トンネルくぐりなどの全身を使った運動も、関節や筋肉からの情報を豊かにしてくれます。

さらに、ボールを目をつぶって受け取る遊びや、ブランコでバランスを取るような活動も固有感覚と前庭感覚を同時に刺激する良い方法です。体を捻ったり、伸ばしたり、力を入れたり抜いたりする活動を多く取り入れましょう。


家庭でも工夫できることはあります。

目をつぶったまま物を触って当てるゲームや、洗濯物をたたむ、靴を揃えるなどの日常動作も立派な感覚刺激になります。

料理の手伝いもおすすめです。野菜をちぎる、こねる、混ぜるといった活動は感触と動作の統合に効果的です。

姿勢と運動の土台は「感じる力」

姿勢や動作が不安定な子を見て、「筋力が足りないのかな?」と思うことがあるかもしれません。

しかし本当の原因は、体の動きを感じる力、つまり固有感覚の未熟さかもしれません。


視覚情報に偏りすぎず、全身の感覚をバランスよく使うことが、姿勢の安定やスムーズな運動につながります。

外で元気に遊ぶこと、見ないで体を使うこと、感じながら動くこと。これらは、子どもの発達にとって何より大切な要素です。


保育や教育の現場でも、こうした視点を取り入れることで、子ども一人ひとりの特性に応じた支援が可能になります。

単に「じっと座っていられない」「不器用」と評価するのではなく、「どの感覚が未発達なのか?」という視点でアプローチすることで、より効果的なアプローチにつなげていくことができます。

今、できることから少しずつで大丈夫です。

園や学校、ご家庭で、「見る」以外の感覚に気づく機会を増やしてあげてください。

それが、お子さん発達の基礎になっていきます。