
こんにちは。子どもと姿勢研究所代表、理学療法士の西村猛です。
保育士さん向け講演会活動を行っていると、必ずと言っていいほど「担当のお子さんで、ちょっと運動しただけで『疲れた』って言う子が多いのですが、これは体力が弱いからでしょうか?」というご質問をいただくことがとても多いです。
また発達相談においても言葉の発達だけでなく、こういった身体面の困りごとを保護者の方から多くご相談いただきます。
「疲れた」をよく言うお子さんを見て、元気がないのかな?やる気がないのかな?と思う親御さんは多いかもしれません。ですが、実はこのような子どもたちは“低緊張”という身体の特性を持っている可能性があります。
低緊張とは?〜筋肉の「張り」がゆるい子どもたち
低緊張とは、筋肉の張りが通常よりもゆるい状態のこと。この張りの程度をコントロールしているのは、脳です。そのため低緊張は子どもの気持ちの問題などではなく、持ってうまれた体の特徴と言えます。
体の中で起こっていることなので、一般的には健康で発達に問題のない子どもにも見られ、見た目にはわかりづらいのが特徴です。
たとえば、座っているとすぐに崩れた姿勢になる、長時間じっとしていられない、抱っこすると柔らかく感じる…こうした特徴がある子どもは、筋肉の張力が弱く、姿勢を保つのに人一倍エネルギーを使っているのです。
なぜ「疲れやすい」のか?
低緊張の子どもは、姿勢をキープするだけでもエネルギーを消耗します。体幹の安定性が乏しいため、机に向かって座ることも、走ることも、普通の子より「がんばっている」状態です。
結果として、「ちょっとの運動で疲れる」「すぐにゴロンと横になる」「やる気がないように見える」といった行動が目立ってしまいます。でもこれは性格ややる気の問題ではなく、身体的な負担の現れなのです。
低緊張を見逃さないためのサイン
・座っている姿勢がすぐ崩れる
・運動のあと、ぐったりしている
・ジャンプやバランスを取る動きが苦手
・立っているときにふにゃっと力が抜けたように見える
こうした特徴が重なって見られる場合、低緊張の傾向があるかもしれません。
家庭でできるサポートは、がんばらせるのではなく「体を使いやすくする」工夫
低緊張の子に必要なのは、「努力」ではなく「環境と工夫」です。
机や椅子の高さを調整して、座りやすい姿勢をサポートしたり、遊びの中で自然に体を使う機会を増やすことがポイントです。
例えば、ブランコ、トンネルくぐり、バランスボールなど、楽しみながら体幹を鍛えられる遊びがおすすめです。
「まっすぐ座りなさい」と注意する前に、「まっすぐ座れる環境かな?」と視点を変えてみましょう。
体操教室やスポーツクラブ選びのポイント
最近は子どもの体力低下を背景に、体操教室やスポーツクラブへの関心も高まっています。
けれども、低緊張の子どもにとっては注意が必要です。
多くの教室では、年齢や学年でクラス分けされ、同じメニューを一斉にこなすスタイルが主流です。しかし、筋力や姿勢保持の土台が整っていない子にとって、その内容がレベルに合っていないこともあります。
例えば、跳び箱や鉄棒の動作では、体幹の安定性や手足の協調性が求められます。こうした動きがうまくできないと、苦手意識が強くなったり、ケガのリスクも高まります。
体操教室を選ぶ際は、個々の発達段階に応じたサポートや、基礎体力を育てるメニューに力を入れているかどうかをチェックするとよいでしょう。
【まとめ】子どもの「疲れた」は見えにくいSOS
子どもが「疲れた」と訴えるとき、それはサボりや甘えではなく、身体の小さなSOSかもしれません。低緊張という特性を知ることで、「頑張らせる」から「サポートする」子育てへと変わっていきます。
毎日をがんばっている子どもの体に、少しだけ寄り添ってあげてください。
それが健やかな姿勢と、未来の元気な体を育てる第一歩になります。