
一本のメールから始まった、小さな学校の大きな物語
ある日、大阪市立西中島小学校の教頭先生から一通のメールをいただきました。
今年度、学校全体で姿勢ピンポーズ(子どもの姿勢 ピン!ポーズ)に取り組んできたこと。
子どもたちがその発表をするので、ぜひ見に来てほしいこと。
そして最後に、こう書かれていました。
「本校は来年度末で統廃合のため閉校となります。
子どもたちの記念にもしてやりたいのです。
どうか発表を聞いてやってください。そして褒めてやってください。」
その言葉に、胸が熱くなりました。
これは導入の依頼ではありません。
すでに一年間、学校全体で取り組んできた実践の「証と成果」を見てほしいというお願いでした。
小さな学校の、大きな一体感
大阪市立西中島小学校は、全校児童30数名の小さな学校です。
けれど、その規模の小ささは、むしろ強みでした。
この取り組みのスタートは、養護教諭・I先生の発信でした。
「姿勢を、学校全体で楽しく育てられないだろうか。」
私の著書「子どもの姿勢ピン!ポーズ」の本を、ぜひ学校で取り組みたい。
その提案を、校長先生、教頭先生、担任の先生方が受け止めてくださいました。

そしてそれは、一人の取り組みでは終わりませんでした。
校長先生や教頭先生が姿勢判定を担い、担任の先生方が日常の中で自然に取り入れ、学校全体で“空気”として広がっていったのです。
毎日、自然に、当たり前のように。
小さな学校だからこそ、思いも実践も、すぐに共有できる。
子どもも大人も一緒になって、一年間かけて、姿勢ピンポーズを育ててきたのです。
ここが、本当にすごいところでした。
子どもたちの発表が物語っていたもの― 発表と出前授業 ―
当日、まずは子どもたちの発表(学校保健委員会)を拝見しました。
スライドを使いながら、姿勢の大切さ、取り組んできたこと、意識しているポイントを堂々と伝える姿。
そこには自信がありました。
一年間、学校全体で取り組んできた子どもたちの誇りが、はっきりと伝わってきました。

当日同行したのは、私が運営する療育事業所「発達支援ゆず」の作業療法士・山口さんです。
山口さんは元警察官。
地域の子どもたちのために自分ができることを考え続け、作業療法士の道を選びました。
その山口さんにも、ぜひこの学校の取り組みを体験してほしい。教頭先生に無理をお願いし、同行の許可をいただきました。
出前授業では、山口さんが悪い姿勢のモデル役に。
「肩が前に出ています!」
「おなかに力を入れてください!」
「背中を伸ばして!」
子どもたちが言葉で姿勢を直していきます。
そして、グループごとにオリジナルのピンポーズづくり。
そのポーズが、本当に素晴らしかった。
面白い。
楽しい。
工夫がある。
そして理にかなっている。
一年間、本気で取り組んできたことが一目でわかるアイデアばかりでした。
子どもたちはのびのびと、元気いっぱいに、楽しんでいました。
私は出前授業の講話の中で、何度か言いました。
「今、私はニコニコ笑っていますが、本当は泣きたいのです」
想いを持って書いた本を、子どもたちが、先生方が、想いを受け継いでくださっているのです。
気を抜くと涙がこぼれそうになるため、私はあえて元気な声で授業を続けました。
当日の様子は、西中島小学校のホームページにも掲載されています。子どもたちの生き生きとした姿を、ぜひそちらでもご覧ください。
保護者の涙が教えてくれたこと
当日、発表の場には保護者の方も参加されていました。
その中のお一人から、ご挨拶をいただく機会がありました。
そのお母様は、こうお話しくださいました。
お子さんがまだ幼かった頃、発達に不安があり、先の見えない日々の中で、私がYouTubeチャンネル「こども発達LABO.」で発信していたYouTube動画をよく見てくださっていたこと。
「本当にあの頃は辛くて……」
そう言いながら、その方は涙をこぼされました。
そしてこう続けられました。
「動画に助けられました。あの時は、本当に救われました。」
私は思わず、「かぶり物をしたり、ふざけた動画ばかりで申し訳ない気持ちです」とお伝えしました。
けれど、その方は首を振って言ってくださいました。
「だからこそ、救われたんです。辛い中で、笑えたんです。」
その言葉を聞いたとき、胸がいっぱいになりました。
そして今、そのお子さんは、西中島小学校で楽しく過ごしている。
特性がありながらも、学校で笑い、学び、姿勢ピンポーズにも取り組んでいる。
「本当に、西中島小学校の先生方に感謝しています。」
そうおっしゃる姿を見ていて感じたことがあります。
教育とは、学校だけのものではない。
家庭だけのものでもない。
地域で発信し、学校が受け止め、子どもが今ここで笑っている。
それこそが、私たちの目指している「子どもが地域の中で育つ」ということなのだと感じました。
閉校を前に、それでも未来へ
西中島小学校は、この一年の取り組みが評価され、大阪府体力づくり優良校にも選ばれました。
姿勢ピンポーズの実践をはじめ、日々の積み重ねが確かな成果として認められたことを、心から嬉しく思います。
小さな学校が、全校で一体となって続けてきた取り組みは、確実に子どもたちの力となっていました。
来年度末、西中島小学校は閉校します。
けれど、子どもたちが、みんなで一体となって取り組んだ経験。自分の体を大切にする姿勢。仲間と学ぶ喜び。
それは、未来へ持っていけるものです。
西中島小学校は、小さくても、未来へ向かって力強く進んでいる学校でした。
手紙がつないだ、もう一つの物語


後日、養護教諭のI 先生から冊子が届きました。
子どもたち一人ひとりの言葉。
出前授業でみんなで「ピン!ポーズ」に取り組む写真。
これらをまとめてくださったのです。
ページをめくるたびに、お子さんたちの元気な声が聞こえてきます。
本当に嬉しく、「もっと私たちにできることをしていかなければ」と改めて誓いました。

そして、私たちもお礼の手紙を書かせていただきました。山口さんも、自分の言葉で。
どんな時代であっても、人は人とのつながりの中で生きていく。
それを実感することが、「教育」なのではないかと改めて感じました。
姿勢は、未来への姿
「子どもの姿勢 ピン!ポーズ」
この本を作ったときの願いは、ひとつでした。
姿勢を、つらい努力の中で学ぶのではなく、楽しみながら、面白がりながら、自然に身につけてほしい。
姿勢を通して、自信や自己肯定感、自己有能感につながってほしい。
大阪市立西中島小学校の子どもたちは、それを見事に体現してくれました。
本を作るという活動は、本当にエネルギーのいる大変な活動です。
でも姿勢ピン!ポーズがあったからこそ、こんな感動と出会えました。
著者として、これ以上の幸せはありません。
一本のメールから始まった物語。
それは、小さな学校が教えてくれた、大きな感動のドラマでした。
姿勢は、形を整えることではありません。
それは、自分の体を大切にする姿勢であり、仲間とともに学ぶ姿勢であり、そして未来へ向かう姿勢です。
大阪市立西中島小学校の子どもたちは、一年間、先生方とともに、その姿勢を育ててきました。
小さな学校だからこそできた、みんなで一体となった取り組み。
子どもも大人も同じ方向を向き、楽しく、前向きに続けてきた時間。
その姿は、私の心に深く刻まれています。
これからそれぞれの新しい場所へ進んでいく子どもたちが、ここで育てた「ピンポーズ」とともに、自分らしく、のびのびと歩んでいってくれることを、心から願っています。
皆さんの未来を、心から応援しています。
西中島小学校での経験は、著者としての私にとっても、かけがえのない宝物となりました。
子どもたちが書いてくれた感想文。
I先生が丁寧にまとめてくださった冊子。
この経験とこの一冊は、私の大切な宝物です。
またいつか、大きくなった子どもたちと、またどこかで会えるといいな。
一本のメールから始まったこのご縁に、心からの感謝を込めて。
子どもと姿勢研究所
理学療法士 西村 猛


