
こんにちは。子どもと姿勢研究所代表、理学療法士の西村猛です。
保育園や幼稚園の先生方から、子どもの姿勢についてご相談をいただくことがよくあります。
「椅子に座っていても、すぐに姿勢が崩れてしまいます」「机に肘をついたり、頬杖をついたりすることが多いです」「しばらく座っていると、机に伏せてしまいます」といったご相談です。
ご家庭でも、「ちゃんと座って」「背中を伸ばして」と何度も声をかけているという保護者の方もおられると思います。
でも、ここで少し考えてみてほしいのです。その子は、本当に「ちゃんと座ろうとしていない」のでしょうか。
もしかすると、その子にとっては、座っていること自体が結構大変なのかもしれません。
今回は、姿勢が崩れやすい子どもの体について、「なぜ座っているだけで疲れるのか?」という視点から考えてみたいと思います。
実は「座っているだけ」でも、体は働いています
座っている姿を見ると、体を動かしていないので、あまり体力を使っていないように見えます。走っているわけでも、ジャンプしているわけでもありません。ただ椅子に座っているだけです。
ところが、体の中ではそうではありません。
私たちが椅子に座っているときには、重力に対して体を支えながら、頭や上半身が倒れないように細かな調整を続けています。
さらに、その姿勢を保ったまま手を使ったり、前を見たり、先生の話を聞いたりしなければなりません。
つまり、「座る」というのは単に体を止めている状態ではありません。
倒れないように、体が絶えず細かな姿勢調整をしている状態なのです。
大人の場合、こうした調整をほとんど意識せずに行っています。
しかし、姿勢を保つことが苦手なお子さんの場合、「座り続ける」ということに、私たちが思っている以上のエネルギーを使っていることがあります。
そのため、時間が経つにつれて背中が丸くなったり、机にもたれたり、頬杖をついたりすることがあります。
こう考えると、「姿勢が崩れる」という見え方も少し変わってくるのではないでしょうか。
姿勢が崩れる=「体幹が弱い」とは限りません
姿勢が崩れやすい子どもの話をすると、よく「体幹が弱いんですね」と言われることがあります。
もちろん、体幹は姿勢を支えるために重要です。体幹が安定することで、私たちは手や足を動かしやすくなります。
ただし、ここで注意してほしいことがあります。
姿勢が崩れる理由を、すべて「体幹が弱いから」で終わらせないことです。
子どもの姿勢には、筋肉の働き方や筋緊張の特徴、バランスや姿勢制御、体の位置や動きを感じ取る感覚、これまでの運動経験、疲労など、さまざまな要素が関係します。
さらに、子どもの体だけが原因とも限りません。
机や椅子の高さが合っていないこともありますし、そのとき取り組んでいる課題が難しく、姿勢にまで意識を向ける余裕がなくなっていることもあります。
そのため、姿勢が崩れている子どもを見て、「体幹が弱いから、体幹トレーニングをしましょう」とすぐに考えるのは少し早いのです。
大切なのは、「この子は、なぜこの姿勢になっているのだろう?」と考えることです。
低緊張のお子さんは、姿勢を保つことに負担がかかることがあります
姿勢が崩れやすいお子さんの中には、「低緊張」と呼ばれる身体的な特徴を持っているお子さんもいます。
低緊張については別の記事でも詳しく解説していますが、筋肉の緊張が低い傾向にある場合、姿勢を安定させ続けることに負担がかかることがあります。
そのようなお子さんを見ていると、背もたれにもたれる、机に肘をつく、頬杖をつく、机に体を預ける、椅子の上で何度も姿勢を変えるといった姿が見られることがあります。
一見すると「姿勢が悪い」と見えるかもしれません。しかし、子どもの側から考えてみると、少し違って見えます。
机に肘をつけば、腕を使って上半身を支えることができます。背もたれにもたれれば、自分の体だけで上半身を支え続けなくてもよくなります。
つまり、その姿勢は、その子なりに体を支える負担を減らそうとしている姿勢なのかもしれません。
もちろん、姿勢が崩れる子どもがすべて低緊張というわけではありませんし、低緊張があれば必ず同じ姿勢になるわけでもありません。
だからこそ、見た目だけで判断するのではなく、「なぜこの姿勢を取っているのか」を考えることが必要です。
「手先が不器用」な子どもも、姿勢から見てみる
もう一つ、姿勢との関係で知っておいてほしいのが、子どもの「不器用さ」です。
発達性協調運動障害(DCD)など、体を協調させて使うことに難しさのあるお子さんがいます。
不器用というと、「ボールがうまく投げられない」「縄跳びが苦手」「走り方がぎこちない」といった運動場面をイメージするかもしれません。
しかし、体を協調させて使うのは運動するときだけではありません。
例えば、お絵描きやハサミ、食事、着替え、文字を書くといった活動でも、私たちは姿勢を保ちながら手を使っています。手を動かすたびに体まで大きく動いてしまっては、細かな作業は難しくなります。
そのため、「手先が不器用」という問題に見えていても、手だけを見ればよいとは限りません。
その手を支えている体全体はどうなっているのか。
ここを見ることがとても大切です。
自閉症など発達特性のあるお子さんの「体」にも目を向けてみる
自閉スペクトラム症(ASD)など、発達特性のあるお子さんの中にも、運動のぎこちなさや姿勢の特徴が見られることがあります。
ただ、ここでも「自閉症だから、この姿勢になる」と単純に考えないことが大切です。
同じ診断名であっても、子どもの体の状態や得意・不得意は一人ひとり違います。
よく動く子もいれば、運動を嫌がる子もいます。
姿勢を保つことが苦手な子もいれば、手先の操作に難しさのある子もいます。
また、感覚の受け取り方や使い方が、その子の動き方に関係していることもあります。
だからこそ、診断名だけを見るのではなく、「この子の体はどうなっているのだろう?」と、一人ひとりを見る必要があります。
発達特性のあるお子さんについて考えるとき、ことばやコミュニケーション、行動面に目が向きやすいのですが、身体や運動発達も、その子を理解するための大切な視点の一つです。
「ちゃんと座って」と言う前に見てほしいこと
では、姿勢が崩れている子どもを見かけたとき、私たち大人は何を見ればよいのでしょうか。
まず見てほしいのは、「いつ姿勢が崩れるのか」です。
座った直後から崩れているのか、それとも10分、20分と時間が経つにつれて崩れていくのか。先生のお話を聞いているときには座れているけれど、お絵描きや制作になると崩れるのか。午前中は大丈夫だけれど、午後になると崩れやすくなるのか。
このように見ていくと、単に「姿勢が悪い」というだけでは分からなかった情報が見えてきます。
例えば、時間が経つほど崩れるのであれば、姿勢を保ち続けることによる疲労が関係しているかもしれません。
手を使う活動になると崩れるのであれば、姿勢を保ちながら手を操作することに負担がかかっている可能性も考えられます。
もう一つ確認してほしいのが環境です。
椅子に座ったとき、足は床についているでしょうか。
机が高すぎたり低すぎたりしないでしょうか。
椅子がその子の体に対して大きすぎないでしょうか。
大人でも、足が床につかない高い椅子に長時間座っていると疲れます。子どもも同じです。
本人の体だけを見るのではなく、「その子と環境との組み合わせ」を見ることも大切なのです。
姿勢が崩れたら、体幹トレーニングをすればいい?
ここまで読んでいただくと、「では、姿勢が崩れないように体幹トレーニングをすればいいんですね」と思われるかもしれません。
しかし、私は子どもの体づくりを考えるとき、特別なトレーニングだけが必要だとは考えていません。
むしろ子どもの時期に大切なのは、毎日の生活や遊びの中で、いろいろな体の使い方を経験することです。
走る、跳ぶ、しゃがむ、登る、ぶら下がる、転がる、四つ這いになる。
子どもはこうしたさまざまな遊びの中で、自分の体をどう使えばよいのかを少しずつ学んでいきます。
また、座ること自体が負担になっているのであれば、長時間「良い姿勢」を頑張らせ続けることだけが正解とも限りません。
途中で体を動かす時間を作る、椅子や机を調整する、活動時間を考える、課題の難しさを調整するといった工夫も、その子が活動しやすくなるための大切な支援です。
「姿勢を直す」ことだけではなく、「その子が活動しやすい状態をどう作るか」という視点を持つことが大切です。
保育士さんに知ってほしい「身体から見る」という視点
私はこれまで、保育士さん向けの講演を行う中で、先生方からさまざまなご相談をいただいてきました。
「すぐ寝転んでしまいます」「運動遊びに参加したがりません」「じっと座っていられません」「手先が不器用です」「みんなと同じ動きができません」といった、いわゆる「気になる子」に関するご相談です。
こうしたとき、「落ち着きがない」「やる気がない」「不器用だから」というところで話を終わらせてしまうと、その子が実際にどこで困っているのかが見えにくくなります。
そこで加えてほしいのが、「身体から見る」という視点です。
姿勢はどうか。体をどのように使っているか。どんな動きが得意なのか。どんな動きになると難しくなるのか。疲れやすくないか。環境を変えるとどうなるのか。
こうした視点を持つことで、それまで「困った行動」に見えていたものが、「この子は、ここで困っていたのかもしれない」と見えることがあります。
私は、この「子どもの見え方が変わること」がとても大切だと思っています。
発達特性のあるお子さんについて、さらに詳しく知りたい方へ
子どもと姿勢研究所では、子どもの姿勢や身体、運動発達について、理学療法士の視点から情報をお伝えしています。
姿勢が崩れやすい、よく転ぶ、運動が苦手、不器用といった姿は、発達特性の有無にかかわらず、さまざまなお子さんに見られます。
一方で、自閉スペクトラム症(ASD)や発達性協調運動症(DCD)など、発達特性のあるお子さんについては、身体や運動だけではなく、認知、ことば、コミュニケーションなど、さまざまな発達の側面を合わせて見ていくことも大切です。
こうした発達特性のあるお子さんの発達について、より詳しく知りたい方に向けた情報は「こども発達LABO.」でお伝えしています。
また、こども発達LABO.では、保育園・幼稚園・こども園などを対象に、発達特性のあるお子さんへの理解を深めるための保育士・幼稚園教諭向け研修も行っています。
研修では、発達特性のある子どもの運動発達や身体の見方だけではなく、認知、ことば、コミュニケーションなども含めて、子どもの発達を体系的に学んでいただけます。
園内研修や職員研修として、発達特性のあるお子さんについて学びたい園の先生方は、子ども発達LABO.の研修についてもご覧ください。
▶ 発達特性のある子どもについて学ぶ|子ども発達LABO.
▶ 保育園・幼稚園・こども園向け研修について詳しく見る
まとめ|姿勢は、子どもの体を知るためのヒントです
姿勢が崩れている子を見ると、私たちはどうしても「姿勢を直さなければ」と考えてしまいます。
もちろん、活動しやすい姿勢を経験することは大切です。しかし、その前に考えてみてほしいことがあります。
なぜ、この子はこの姿勢になっているのでしょうか。
もしかすると、座っているだけでも体が頑張っているのかもしれません。机や椅子が合っていないのかもしれません。手を使うことと姿勢を保つことを同時に行うのが難しいのかもしれません。
姿勢は、「良い」「悪い」を判断するだけのものではありません。
その子の体が今どのように育っているのか、どこで負担がかかっているのかを知るための、一つの手がかりです。
「ちゃんと座って」と注意する前に、「どうして、この姿勢になっているのかな?」と考えてみる。
そこから、その子の見え方が少し変わってくると思います。




