
保育園や幼稚園で子どもたちを見ていると、こんな姿が気になることはないでしょうか。
集まりの時間になると、すぐに寝転んでしまう。
椅子に座っていても、だんだん身体が傾いてくる。
製作をしていると机に肘をついたり、最後には伏せてしまったりする。
壁や机、先生にもたれかかることが多い。
こうした姿が続くと、「もう少しちゃんと座ってほしい」「姿勢を意識すればできるのでは?」と思うこともあるかもしれません。
しかし、子どもによっては、身体を起こして支え続けること自体に負担がかかっている場合があります。
その背景を考えるときに、保育士さんや幼稚園の先生に知っておいてほしい身体の特徴の一つが「低緊張」です。
この記事では、子どもの姿勢を「良い・悪い」だけで判断するのではなく、園生活で見られる姿から、その子の身体について考えてみたいと思います。
「ちゃんと座る」が難しい子どもたち
保育の現場では、上に挙げたような子どもの姿を目にすることがあります。
先生からすると、「さっき声をかけたばかりなのに、また姿勢が崩れている」と感じることもあるでしょう。
けれども、ここで少し見方を変えてみていただきたいことがあります。
それは「なぜ、この子はこの姿勢になっているのだろう?」という視点です。
私たちはどうしても、目に見えている「姿勢の崩れ」を直そうとします。
しかし、その子が何度も同じ姿勢に戻るのであれば、そこには何らかの理由があるのかもしれません。
姿勢の崩れは、単に本人が姿勢を意識していないから起こっているとは限らないのです。
座っているだけでも、身体は働いています
大人にとって「座っている」という状態は、休んでいるように感じるかもしれません。
しかし、身体の中ではさまざまな働きが起こっています。
私たちの身体には常に重力がかかっています。その中で頭や身体を起こし、倒れないように細かく調整しながら姿勢を保っています。
つまり、子どもが椅子や床に座って先生の話を聞いているときも、身体は何もしていないわけではありません。
さらに製作になると、姿勢を保ちながら先生の説明を聞き、手元を見て、ハサミやのり、クレヨンなどを操作します。
「座る」ことに加えて、「見る」「聞く」「手を使う」といった活動を同時に行っているわけです。
そのため、身体を安定させることに多くの努力を必要とする子どもにとっては、「座って製作する」という活動そのものが、大人が考えている以上に負担になっていることがあります。
保育士・幼稚園教諭に知ってほしい「低緊張」
こうした子どもの身体を考えるときに考えてみていただきたいのが「筋緊張」です。
筋肉は、走ったり跳んだりするときだけ働いているわけではありません。
姿勢を保ったり、次の動きに備えたりするためにも、一定の緊張状態(張り)を保っています。
この筋肉の緊張が低い状態を「低緊張」と呼びます。
ただし、ここで注意してほしいことがあります。
「低緊張=筋力が弱い」というわけではありません。
筋緊張と筋力は別のものです。
また、「姿勢が崩れるから低緊張」「疲れやすいから低緊張」と、園での様子だけから判断することもできません。
子どもの姿勢には、身体機能だけではなく、感覚、疲労、活動内容、机や椅子などの環境、その日の体調など、さまざまな要因が関係しています。
大切なのは、子どもの姿勢や行動の背景を身体から考える視点の一つとして知っておくことです。
「もたれる」「伏せる」にも理由があるかもしれません
たとえば、製作中にいつも机に肘をついている子がいたとします。
「肘をつかないで、ちゃんと座ろうね」と声をかければ、一時的には姿勢を直せるかもしれません。
しかし、少しするとまた肘をつく。
そんなとき、その子が肘をついている理由を考えてみます。
腕を机につくことで身体を支える場所が増え、姿勢を安定させやすくなっているのかもしれません。
同じように、机に伏せる、壁にもたれる、椅子の背もたれに身体を預ける、床に座ると手をつく、といった姿にも、身体を支える負担を少なくするという側面があるかもしれません。
もちろん、すべての子どもが同じ理由でその姿勢をとっているわけではありません。
だからこそ「この子は、どうしてこの姿勢を選んでいるのだろう?」と考えることが大切なのです。
これは、子どもの好きな姿勢をすべて認めましょう、という意味でもありません。
必要なのは、姿勢を直すか直さないかの二択ではなく、まずその姿勢になっている理由を考えることです。
園生活の中で「いつ・どこで・どのように」を見てみる
では、保育士さんや幼稚園の先生は、実際にどのようなところを見ればよいのでしょうか。
私はまず、「この子は姿勢が悪い」とひとまとめにするのではなく、姿勢が変化する条件を見てほしいと思っています。
たとえば、朝の集まりでは比較的座れているのに、午後になるとすぐに寝転んでしまう子がいるかもしれません。
自由遊びでは気にならないのに、製作になると机に伏せる子もいるでしょう。
あるいは、活動が始まった直後は座れていても、10分ほど経つと姿勢が大きく崩れてくることもあります。
そう考えると、見るべきなのは「姿勢が良いか悪いか」だけではありません。
- どんな活動のときに崩れやすいのか
- どのくらいの時間で変化するのか
- 午前と午後で違いがあるのか
- 好きな遊びのときはどうなのか
- 机や背もたれなどの支えがあると変わるのか
こうした条件を見ていくことで、「いつも姿勢が悪い」という見方から、「この条件になると身体を支えることが難しくなるようだ」という、もう一段具体的な見方に変わっていきます。
その違いこそが、その子の身体を理解するためのヒントになります。
身体の見方を知ると、子どもの見え方が変わる
園には、姿勢が崩れやすい子だけでなく、すぐ疲れる子、不器用な子、運動遊びを嫌がる子、製作が苦手な子、じっと座っていることが難しい子など、さまざまな子どもがいます。
こうした姿をすべて「やる気」や「頑張り」の問題として捉えてしまうと、その子がなぜ困っているのかが見えにくくなることがあります。
一方で、「発達特性があるから仕方がない」と考えて終わることも違います。
大切なのは、目の前に現れている姿を手がかりに、その背景を考えていくことです。
「ちゃんと座ろうね」と声をかける前に、「なぜ、この子はこの姿勢になっているのだろう?」と考えてみると、ヒントが見えてくるかもしれません。
子どもの姿勢は、単に「直すもの」ではありません。
姿勢を手がかりに、その子の身体がどのように育っているのか、どのような場面で負担が大きくなるのかを考えていく。
保育士さんや幼稚園の先生がこうした「身体を見る視点」を持つことで、それまで「困った行動」に見えていた子どもの姿が、その子を理解するための大切なサインとして見えてくることがあります。
ぜひ日常の保育や活動場面での参考にしていただければと思います。
保育園・幼稚園向けの研修・講演を行っています
子どもと姿勢研究所では、保育士・幼稚園教諭の皆さまを対象に、子どもの姿勢や身体発達についての研修・講演を行っています。
「姿勢が崩れやすい」「疲れやすい」「不器用」「運動が苦手」など、日々の保育の中で気になる子どもの姿には、さまざまな背景があります。
研修では、こうした子どもの姿を単に「できる・できない」で捉えるのではなく、身体や発達の視点からどのように見立て、日々の保育や環境設定につなげていくのかを、理学療法士の視点から具体的にお伝えしています。
園内研修や保育士・幼稚園教諭向け研修など、ご希望のテーマや対象に合わせた内容で実施していますので、まずはご希望をお聞かせください。


