- 「体で覚える」ことは小脳が司っていると言われる。
- 小脳を発達させるのは成功体験ではなく、失敗経験。
- 痛み刺激がプラスされると、小脳の経験学習はより効果的。
- 小脳の発達は7歳頃に完成すると言われている。
子どもの姿勢発達や活動経験において、小脳の発達は深く関係しています。
そのため、乳幼児期には小脳を鍛えることがポイントになります(脳トレのことではありません)。
その理由について、順にお話していきましょう。
小脳の長期抑制(自転車に乗れるようになるヒミツ)
小脳に限らずヒトの脳機能についてはまだまだ解明されていないことが多くあります。
小脳の役割についても未知の世界です。
もともと小脳は次のような役割があると言われています。
・体のバランスを司る ・運動の円滑さをコントロールする。
つまりなめらかな体の動きは小脳がコントロールしていると言われます。
実はそれ以外にも、小脳には認知・感情のコントロール・一時記憶などにも役立っていると言われています。
その中で、子どもの姿勢や運動発達に大きな影響を与えている機能が、大脳で学んだことを、コピーして保存するという機能です。
わかりやすく言うと「体で覚える」ということです。
子どもの頃に自転車に乗ることができた人は、何年乗らなくても、必要な時になれば乗ることができます。泳ぎができる人は、何年間もおよぐことがなくても、すぐに泳ぐことができます。
このように人間は一度体で覚えたことは忘れないという特徴があります。最近の研究ではこの体で覚える、ということを小脳が担当しているのではないかと言われているのです。
少し専門的な話になりますが、これを小脳の長期抑制といいます。
私は子どもの姿勢学習がこの「小脳の長期抑制」が関係しているのではいかと考えています。
小脳の長期抑制について
長期抑制の抑制とは何を抑制するのか。
それは「間違った方法を抑制する」ということです。
たとえば、子どもが自転車に乗る練習をしていたとしましょう。
あなたも記憶にあると思いますが、はじめから自転車にうまく乗れる人はいません。
はじめは大人にガイドしてもらいながら漕ぐ練習をします。 それになれてくると、今度は介助の手を離してもらい、今度は自分の体(バランス)で倒れないように走る練習をします。 さて、損練習中(誰もが経験のあることですが)、必ず転びます。 何度も転びます。 それを繰り返しているうちに、ある時スイスイと進むことができます。 できた!というのもつかの間、また転びます。 そういうことを繰り返しているうちに転ばない距離が伸びていき、最後にはずっと転ばなくなります。
実はこの課程が重要なのです。
何度も転ぶから、やがて転ばなくなるのです。
ではこのとき小脳でどんな反応が起きているのでしょう。
- うまくできずに転ぶことで、「あ、失敗した。こけて痛いなあ。」という失敗経験と痛み刺激が小脳に入ります。
- すると小脳はなんとその間違った使い方を二度としないように封印してしまうのです。転ぶたびに、つまり失敗のたびにその失敗した方法を封印しているのです。
- それを繰り返しているうちに偶然転ばない体の使い方をしたところ、転びませんでした。
- 「できた!」と子どもは感じます。そのとき脳は「これが正解!」と判断しています。
- この正解の方法はこれまた小脳で記録されます。
このように、小脳は「間違った使い方は封印し、正しい使い方を記憶する」のです。
そして、一度封印された(間違った)やり方はずっと抑制(表に出てこない)されます。
これが小脳の長期抑制と言われるものです。
このため、何十年ぶりに自転車に乗っても、練習が必要になることなく、すっと乗り方を思い出せるのです。
痛みのある経験のほうがより効果的
痛みの経験があることで、体で覚える学習はより効果的になります。
自転車でいえば、転ぶ度に痛い思いをします。実はその「痛かった」という記憶が失敗した経験と結びつきやすいのです。
偶然にも幼児では痛みに関する感覚が未熟なので、痛みを忘れやすいというメリットがあります。
たとえば転んで痛いといって泣いていても、好きなテレビ番組が始まると、ケロッとしていたりします。
これがどういうメリットかというと、痛みに鈍感で忘れやすいからこそどんどん失敗ができる、ということです。
よく言われることですが、「子どもは失敗の経験を積み重ねて成長する」ということだといえます。
なお、ここで言う痛みのある経験とは、あくまでも自転車の練習中における怪我や痛みのことを指します。
経験させるためにわざと転ばせる必要はありませんし、大きな怪我をしたほうが良いというものでもありません。
(特に幼児期における)子どもの遊びと小脳の発達
自転車の例がそうだったように、小脳は失敗経験をすることで正しい方法を学んでいきます。
では、子どもの外遊び(だるまさんがころんだ)で同様のことを考えてみましょう。
だるまさんがころんだ、で脳が学ぶこと
鬼が後ろを向いて「だるまさんがころんだ」と数えている間に少しずつ鬼の方に移動します。
「、、、ころんだっ!」と言い終わると同時に鬼が振り返ると同時に、すべての動きをピタッと止めます。
この時、①鬼が振り向いたという目からの情報(視覚情報)、②鬼の声が聞こえなくなったという耳からの情報(聴覚情報)受けた大脳が、「即座に体の動きを止めなさい!」という指令を体に出します。
つまり、視覚刺激と聴覚刺激が同時に大脳に入り、それに対する指令を大脳が出し、即座に腕や足の筋肉が静止するように働く、という流れです。
もしその司令と筋肉の働くタイミングを間違ってしまうと、それは失敗になります。
失敗を経験した大脳は、違うタイミングで体の動きを止めようとします。
そうして何度か失敗している内に、バッチリのタイミングがつかめてきます。
一旦タイミングがつかめると、鬼に指摘されることなく近づいていくことができるようになります。
だから大人になってからだるまさんがころんだで遊んでも、子どもの頃のように止まるタイミングがうまく行かず、グラグラしてしまう、ということも少ないわけです。
このように子どもは、遊びの中で体を使うタイミングや力加減の失敗を繰り返しながら学習していっているのです。
外遊びをすることは力を強くするだけではなく、脳の発達も同時に行っているのです。
そして子どもの頃に学習した経験は大人になっても忘れることなく小脳の中に記憶されているのです。
もちろん遊びだけではなく、姿勢の発達にもこのような小脳の学習効果があると考えられます。
良い姿勢を子どもの頃に学習すれば、大人になってからも良い姿勢を保つことができるといえます。
小脳の長期抑制が姿勢にも関係しているのです。
なお、小脳は7歳頃までに完成すると言われています。
7歳頃までに発達した小脳で一生過ごしていくことになるのです。
だからこそ幼児期に失敗を含めた経験学習をさせ、小脳の機能を最大限に発達させることが大切になるのです。
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