発達障害児こそ「体の状態に合わせた椅子」が必要

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真っ直ぐ座れないことを「躾のせい」にされてしまう

発達障害児の多くは、姿勢や体の使い方に課題があります。そのため真っ直ぐに座れない、すぐに体が崩れてしまうなどの現象を目にします。

そのため体に合った、適切な椅子に座ることは、とても大事な環境設定の一つになります。

 

しかし「なぜ座りにくいか」、「体に合った椅子はどのようなものか」ということについて考えられることはあまりなく、「やる気がない」とか「ちゃんと座ろうという心がけがない」、挙句の果ては「親の躾がなっていない」など気持ちの問題や躾の問題にされてしまうことが多々あります

躾が悪いと言われてしまった親御さんは、「自分がもっと厳しくしなければいけないのだろうか」と悩んでしまうことも少なくありません。

椅子を体に合わせるか、体に椅子を合わせるか

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脳性麻痺児などの肢体不自由児の場合、きちんと座れないという課題があった時、座位保持装置と呼ばれる椅子を作るなど、体に合わせたあるいは正しい姿勢が取れるような環境設定をすることが良くあります。

椅子の形やサイズは、子どもの体に合わせて作られるので、オリジナルの椅子ができあがります。

例えば、背骨が側方に曲がっている「側弯」と呼ばれる状態であれば、椅子の背もたれ部分を背骨の曲がり具合に合わせて作るなどの方法もとられます。

 

一方、発達障害児では、子どもを環境に合わせようとする傾向が強く、椅子そのものを工夫するという発想にはまずなりません

そのため、一般的な椅子(例えば教室にある椅子のような)に「キチンと座ること」という目標を設定されることもあります。

これでは、体に椅子を合わせるのではなく、椅子に体を合わせる状態です。

制度の壁も立ちはだかる

もし、低緊張の子どもがしっかりと背中全体をホールドするような背もたれのある椅子に座れば、真っ直ぐ座れるかもしれません。

しかしそれを試してみることや、福祉の制度を利用して購入するということはできません(座位保持装置を制度を利用して購入するには、身体障害者手帳が必要です。また10数万円以上になる商品が多く、実費で購入することは現実的ではありません)。

 

ではどうすればいいかというと、発達障害の子どもにも適切な椅子が必要だということについての根拠や事例を示していくこと、利用者(保護者の方や子どもを取り巻く関係者)から「自分の体に合った椅子を作ることが、安定した座位につながるため、ぜひ制度を作って欲しい」という声を大きくしていくことです。

根拠を示していくのは療育関係者の役割、声を上げていくのは、保護者をはじめ子どもに関わるすべての大人の役割になりますね。

 

しかし制度の壁は高く、理解を得られるまでには相当な時間を要することになりそうです。

また発達障害児にとって体に合った椅子が大事だと考える療育関係者も少ないのが現状です。

 

だからそういった具体的な取り組みの前に、「発達障害の子どもにも適切な椅子を選んであげることが大切」という啓発から始める必要があるのかもしれません(ということでこの記事を書いています)。

【参考】

発達障害児の姿勢がみるみる良くなる!?幼児椅子に付ける「股止め」の効果

「根性論」がはびこる

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発達障害児の姿勢では、「やる気があればできる」という根性論になってしまいがちです。

また「体に合わせた椅子を使うなんて、甘やかすことになる」というような捉え方をする人が出てきて、「体に合った椅子を作るという環境設定=甘やかし」という理論がはびこります。

そして、「キチンと座りなさい」と言われた子どもは、「自分は上手く座れない(できない)」という負の感情を持つことになってしまいます。

 

そもそも療育の基本は、「できない」を認識させることではなく、「できた!」を沢山経験させてあげることです。

しかし「キチンと座りなさい」という声かけをしている限り、上手くできない子どもにとっては、自己肯定感を下げることにしかなりません。

 

このようにして、根性論が子どもの可能性を摘みとっていきます。

体に合った椅子に座るとこんな効果が

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ちなみに、発達障害のある子どもが体に合った椅子に座ることで得られる効果は、次の通りです。

1.疲れにくくなるので、座ることへの苦手意識が減る。

 

2.体の傾きのない姿勢で座ることで、視線が真っ直ぐに定まりやすくなる。それにより、学習の効果を引き出しやすくなる。

 

3.視線が定まることで、手先を使う作業にも注意が向きやすくなる。その結果、手と目を協調させて使うことが行いやすくなる。

 

4.姿勢の崩れからくる、肩こりや腰痛を予防、改善できる。

これらの効果を見ただけでも、綺麗な姿勢で座るための椅子選び(環境設定)がいかに大事かということが分かっていただけるでしょう。

 

もちろんこれらの効果は、発達障害のある子どもだけではなく、障害のない子どもにも共通したことです。

まとめ

  • 発達障害児にとって、環境を適切に設定するということは、心や体の発達と同じくらいに大事なことです。
  • その例として、「体に合った椅子に座る」ということが挙げられますが、療育の現場ですら「やる気」など気持ちの問題にされてしまうことがあります。
  • 「やる気があれば座れる」という根性論は、子どもの可能性を潰すだけで、何の効果もありません。
  • 体に合った椅子に座ることで、学習に集中しやすくなる、手を上手く使うことにつながるなど、多くの効果が期待できます。
  • 発達障害児の椅子や座る姿勢について、考える機会を持ってみてはいかがでしょうか。